【第2幕:冷徹なる情報操作、最上義姫の覚悟と不退転の返り血】
大崎合戦での勝利の栄光は、一瞬で激変する。合戦の直後、岩手沢(現・岩出山)の宿敵・氏家吉継が、大崎の軍事機密をすべて手土産に伊達政宗のもとへと完全に逃亡(亡命)してしまったのだ。これによって大崎の防衛網は完全に崩壊する。
さらに大崎家中では「黒川と共に桑折城から出撃して浜田景隆をハメた中目は、実は伊達と繋がっているのではないか」という凄じい猜疑心の目が向けられ、中目家は針のむしろに座らされる。その極限状態のなか、政宗からなんと「全く同じ内容の2通目の書状」が届く。
2通目の書状(政宗の声):『先の無礼は問わぬ。中目兵庫、もう一度言う。伊達に付け。加美の四日地、あの港をすべてお前に与える。』
部屋に駆け込んできた善右之門は驚愕する。
善右之門:「兄上、また同じ書状だ! 外の奴ら、完全に俺たちを疑っている。この書状が見つかったら裏切りの証拠として首をはねられる、今すぐ燃やすべきだ!」
兵庫(書状を机の上に堂々と開いたまま置く):「……燃やすな、善右之門。政宗は中新田で『我が軍の知略の前に完璧な敗北を喫し、総大将の首を獲られかけた』からこそ、中目の『データ』が敵に回れば二度と大崎を切り従えられぬと身に染みて理解した。この2通目の書状は、独眼竜の『敗北宣言』だ。そこで飛びつけば、中目はただの軽い裏切り者として安く買い叩かれる。独眼竜の誘いだ、まずは泳がせる。それよりも善右之門、これ(政宗の焦り)を現場でひっくり返してこい!」
兄・兵庫は、窓の外で殺気立って聞き耳を立てている古川の家臣たちに向かって、わざと聞こえるように大声で言い放つ。
兵庫:「政宗め、中新田の敗北がよほど悔しかったと見える! 加美の四日市をやると何度誘われようが、我ら中目兄弟、大崎の土地は一歩も譲らぬわ!」
外の家臣たちは「おお、中目殿は伊達からのこれほどの大誘惑にも一切なびかぬ絶対的な忠臣だ!」と完全に騙され、包囲を解いて引き上げていく。政宗の執着を逆手にとり、完璧に家中の目を眩ませたのだ。
しかし、大崎の滅亡を確信し、一族の知恵を未来へ残すと決意した兵庫は、大崎・伊達、そして山形の雄・最上義光(もがみ よしあき)の3者の間で始まった和平交渉の裏で、本格的に暗躍を始める。
その交渉の最前線、大崎・最上連合軍と伊達軍が今にも激突せんとする泥塗れの戦場の真ん中に、突如として一張りの仮屋が建てられた。乗ってきた輿(こし)から降り立ち、凄じい眼光で両軍を睨み据えたのは、政宗の実母であり義光の妹・義姫(よしひめ)その人であった。
義姫:「戦うというのであれば、まずこの私を殺しなさい!」
いつ矢弾が飛び交うかも分からぬ最前線の中間地点に、義姫はなんと約80日間にわたって居座り続け、息子・政宗と兄・義光の戦闘を力づくで阻んだのだ。この母の命懸けの「戦場居座り」という圧倒的な狂気と覚悟の前に、両軍は完全に矛を収めざるを得なくなる。
大崎の筆頭奉行として、和睦の条件を詰めるためにこの最前線の仮屋へと赴いた兄・兵庫に対し、泥にまみれながらも圧倒的な覇気を放つ義姫が、鋭い眼光で兵庫を正面から見据え、凛とした強い声で言い放つ。
義姫:「中目兵庫。我が息子・政宗が猛るあまり、大崎の地に不条理な戦火を広げ、貴殿の一族に泥を塗ったこと……伊達の母として、最上の娘として、我が不徳、ここに認めよう。……だが、和睦は私の意地でもぎ取った! ここから先は、貴殿のその『知恵』をすべて私に差し出せ。我が兄・義光の顔を立てつつ、伊達にとっても遺恨の残らぬよう、この大崎家中を裏から完璧にコントロール(誘導)してみせよ! 独眼竜の母を動かしたのだ、その頭脳、中目一族の存続のために死に物狂いで使い切れ! 完璧にやり遂げた暁には、私がその大恩、必ずや未来へ繋いでみせる!」
最上の最高権力者である義姫が、一介の地方豪族である中目の頭脳を最高に評価し、有無を言わせぬ強さで命じたのだ。兵庫は背筋に走る戦慄と共に、「この義姫様という巨大な太陽の意志に従うことこそが、中目が未来を生き残るための運命の糸になる」と確信する。
兵庫は大崎の筆頭奉行という絶大な権力を使い、義姫の命令通り「最上義光を窓口とした和平講和」が、伊達側に圧倒的に有利に進むよう、大崎家中を裏から完璧に操作し始める。
だがその直後、しびれを切らした政宗から「3通目の書状(同じ内容)」が突きつけられ、さらに昨日までの同志であった古川の家臣に、伊達や最上・義姫との密謀の決定的な証拠を掴まれそうになる。 これ以上工作がバレれば、伊達有利の講和も、義姫の命懸けの居座りも、中目一族の未来もすべて灰になる。覚悟を決めた兄・兵庫は、その古川家臣を自らの部屋へ呼び出し、口封じのために刀を抜いて一閃, 斬り伏せた。
善右之門:「兄上! なぜ昨日まで共に戦った仲間を斬る!?」
兵庫(古川家臣の返り血を全身に浴び、禍々しく狂った笑みを浮かべながら):「こうせねば、奴らの目は眩ませぬ! 3通目の書状に、私は『家中より猛烈なる疑いをかけられ動けぬ』と命がけの返答を返した。そして最上(義姫様)を窓口とした講和はすべて伊達有利に整えた。私が一人で『古川を裏切った大悪人』になれば、お前たちへの疑いは逸れ、伊達への手土産(講和)も完成する。私は二度と大崎には帰らぬ。悪名を背負って伊達に入り、中目の知恵を未来へ繋ぐ。……善右之門, お前は中目の『誇り』として、大崎の民と共に生きろ」
兄は返り血を浴びたまま、たった一人で漆黒の闇の中、伊達の陣営へと去っていった。 すべては、最前線に80日間居座った義姫の激烈なる指示に応え、大崎家中を完璧にコントロールしきった、天才政治家・中目兵庫のあまりにも哀しく、あまりにも完璧な仕掛けであった。
「この物語のどこまでが真実で、どこからが虚構かは、読者の想像にお任せします。」

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