2026年6月16日火曜日

第二章:落ち武者の罵声と、子供たちの小さな盾 【大崎新生伝 ―数騎の吶喊と、宿命の道化―】


 

命からがら伊達領へと辿り着いた一行を待っていたのは、

あまりにも冷徹な現実だった。 

伊達家の当主・伊達稙宗(だて たねむね)は彼らを歓迎しなかった。

大崎が完全に疲弊し、伊達の傀儡となるまで時間を引き延ばすため、

わざと2年間も領内に放置したのだ。

中目たちは、ボロボロの甲冑姿のまま、

定まらぬ宿営地を求めて伊達領内を彷徨うことになった。 

彼らはもはや大名行列ではなく、敗残兵そのものであった。

行く先々で村の子供たちに指をさされ、嘲笑われる。

 「見ろよ! 汚い落ち武者だ! 落ち武者が通るぞ!」



石が当たり、泥を被る主君・義直。家臣たちは屈辱に拳を握りしめた。

ここで問題を起こせば、大崎家は本当に滅んでしまう。 

その時、一歩前に進み出たのは中目だった。

 彼は投げつけられた石をヒラリと手で受け止めると、



突然、子供たちの前でもの凄い変な顔をして、

コミカルに踊ってみせたのだ。

さっきまで戦場で敵陣をブチ抜いていた猛将が、

全力で泥臭い道化(ピエロ)になっている。

「なんだあの落ち武者のおじさん、面白いぞ!」 

子供たちは大爆笑し、いつの間にか中目の周りには

笑顔の子供たちが集まり、村の人気者になっていた。

中目自身、領地内での大人の事情を考えて計算していたわけではない。

ただ、重苦しい現実を背負う彼にとって、

無邪気な子供たちが好きだった。

だからこそ、ただ純粋に子供たちの前でピエロになれたのだ。

だが、大人の世界はどこまでも冷酷だった。 



ある日、伊達の足軽たちが面白半分に中目の進路をふさぎ、

ニヤニヤと笑いながら、わざと足元の泥水を中目の甲冑に蹴り上げた。

「汚ねぇな、大崎の落ち武者が。泥を落としてから歩けよ」 

中目はじっと唇を噛み締め、無言で耐えるしかなかった。

その時である。



「こら! お前ら、落ち武者いじめんなって!!」

いつものように中目と遊んでくれる近所の子供たちが、

まるで盾になるように中目の前に立ちふさがり、

伊達の足軽たちを鋭い声で睨みつけたのだ。 

「このおじさんは、面白い踊りをしてくれるいい人なんだぞ! お前らよりよっぽど偉いんだ! どっか行け!」


思いがけない子供たちの抵抗に、

足軽たちは呆気に取られ、舌打ちをして去っていった。 

中目は呆然とその小さな背中を見つめた。

ただ子供が好きで一緒にいただけの時間が、

この暗闇の中で自分の誇りを守ってくれた。

中目は子供の頭をそっと撫で、温かい笑顔を見せた。

 (この子供たちの笑顔のためなら、俺はどんな泥水でもすすってやる)

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