命からがら伊達領へと辿り着いた一行を待っていたのは、
あまりにも冷徹な現実だった。
伊達家の当主・伊達稙宗(だて たねむね)は彼らを歓迎しなかった。
大崎が完全に疲弊し、伊達の傀儡となるまで時間を引き延ばすため、
わざと2年間も領内に放置したのだ。
中目たちは、ボロボロの甲冑姿のまま、
定まらぬ宿営地を求めて伊達領内を彷徨うことになった。
彼らはもはや大名行列ではなく、敗残兵そのものであった。
行く先々で村の子供たちに指をさされ、嘲笑われる。
「見ろよ! 汚い落ち武者だ! 落ち武者が通るぞ!」
石が当たり、泥を被る主君・義直。家臣たちは屈辱に拳を握りしめた。
ここで問題を起こせば、大崎家は本当に滅んでしまう。
その時、一歩前に進み出たのは中目だった。
彼は投げつけられた石をヒラリと手で受け止めると、
突然、子供たちの前でもの凄い変な顔をして、
コミカルに踊ってみせたのだ。
さっきまで戦場で敵陣をブチ抜いていた猛将が、
全力で泥臭い道化(ピエロ)になっている。
「なんだあの落ち武者のおじさん、面白いぞ!」
子供たちは大爆笑し、いつの間にか中目の周りには
笑顔の子供たちが集まり、村の人気者になっていた。
中目自身、領地内での大人の事情を考えて計算していたわけではない。
ただ、重苦しい現実を背負う彼にとって、
無邪気な子供たちが好きだった。
だからこそ、ただ純粋に子供たちの前でピエロになれたのだ。
だが、大人の世界はどこまでも冷酷だった。
ある日、伊達の足軽たちが面白半分に中目の進路をふさぎ、
ニヤニヤと笑いながら、わざと足元の泥水を中目の甲冑に蹴り上げた。
「汚ねぇな、大崎の落ち武者が。泥を落としてから歩けよ」
中目はじっと唇を噛み締め、無言で耐えるしかなかった。
その時である。
「こら! お前ら、落ち武者いじめんなって!!」
いつものように中目と遊んでくれる近所の子供たちが、
まるで盾になるように中目の前に立ちふさがり、
伊達の足軽たちを鋭い声で睨みつけたのだ。
「このおじさんは、面白い踊りをしてくれるいい人なんだぞ! お前らよりよっぽど偉いんだ! どっか行け!」
思いがけない子供たちの抵抗に、
足軽たちは呆気に取られ、舌打ちをして去っていった。
中目は呆然とその小さな背中を見つめた。
ただ子供が好きで一緒にいただけの時間が、
この暗闇の中で自分の誇りを守ってくれた。
中目は子供の頭をそっと撫で、温かい笑顔を見せた。
(この子供たちの笑顔のためなら、俺はどんな泥水でもすすってやる)
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