2026年6月11日木曜日

『地味なサラリーマンなかのめさん』8話 即座廃棄(シュレッダー)――「兄貴のキャリアは、俺が守る」

 

〜桓武天皇の血を引く男、なぜか未開の地方市場(ローカル)で無双する〜

第8話:即座廃棄(シュレッダー)――「兄貴のキャリアは、俺が守る」

弟・寺尾隆継の手元にある一通の密書。 それは政宗社長による「現場を煽って一揆を起こせ」という、いわゆる「炎上マーケティングの指示書」でした。

これを豊臣本社の代官に見つければ、政宗は即刻退任(改易)、本陣にいる兄・なかのめさんも「共犯者」として社会的に抹殺されます。

隆継は、現場のエンジニアたち(一揆の参加者)の熱気を背に感じながら、燃え盛るキャンプファイヤーの前で密書を眺めていました。周りでは、若手の仲間たちが「今すぐ暴動を起こして、この腐った管理体制をぶち壊そうぜ!」と息巻いています。

「……隆継さん、政宗社長からの指令はどうするんですか? もう、現場の怒りは抑えられませんよ!」

隆継は仲間たちの熱い視線を受けながら、静かに答えました。

「政宗社長からのメッセージは、しっかりと受け取った。現場の『熱量』は、今後の交渉で一番大事なカードになる」

そう言うと、隆継は仲間たちの前で、密書を細かく破り、焚き火の中に放り込みました。 紙は一瞬で灰になり、その痕跡は消滅しました。

「えっ……証拠を捨てたのか!?」

驚く仲間に、隆継は淡々と告げました。

「これは『証拠』じゃない。ただの『リスク』だ。兄貴が積み上げてきた現場での実績、そして政宗社長がこれから展開しようとしている新しい戦略。それら全てを台無しにする可能性があるものは、今の俺たちには不要だ。現場の怒りは、俺たちが別の形――『交渉のためのデータ』として回収する。暴れるのは、俺が許可したタイミングだ」

兄・なかのめさんが、ホワイトな立場で社内をコントロールしている以上、弟の隆継が影で「汚い仕事」の証拠を持っていてはならない。それは、兄が築いてきた「合理的でクリーンな仕事人」というブランドを汚す行為だと判断したのです。

一方、その頃、本陣(オフィス)にいる兄・なかのめさんは、政宗社長の横で何食わぬ顔でPCを叩いていました。 政宗が横から小声で、「……隆継には、うまくやったか?」と問いかけます。

なかのめさんは、PCの画面から目を離さず、一言だけ返しました。

「あいつなら、一番効率のいい処理(即座廃棄)を完了させているはずですよ」

あえて指示を出さずとも、互いの「引き算の美学」を理解し合う兄弟。 隆継は密書を灰にすることで、政宗には「忠誠心」を、兄には「絶対的な安全」を、そして自分たちには「現場の主導権」を残したのです。

「飾りのない戦い方」を知る二人にとって、最大の武器は物理的な証拠ではなく、「何を捨てて、何を活かすか」という徹底的な取捨選択にありました。


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