兵庫は即座に行動を起こした。あえて本拠である中目館を放棄し、大崎方の主要な防衛拠点として機能させるべく、黒川晴氏(くろかわはるうじ)の待つ桑折城(こおりじょう)へと軍勢を急速に移動させる。その行軍の道中、陣を敷く直前、兵庫はふと足を止め、傍らに控えていた盟友・古川弾正(ふるかわだんじょう)に視線を向けた。
古川弾正は、大崎の猛将である。その胸には高い矜持と、冷静な知略が宿っていた。中目兵庫とは若い頃から苦楽を共にしてきた友であり、互いの呼吸ひとつで次の一手がわかるほどの「良き仲」であった。
「古川殿。このまま私が出陣すれば、師山を守る貴殿の兵が手薄になるのではないか。……どうだろう、我が兵をいくらか、この師山に預けていこうか」
兵庫の言葉には、盟友の身を案じる純粋な気遣いがあった。しかし、古川弾正は険しい山肌を見上げ、不敵な笑みを浮かべて力強く首を振った。
「兵庫殿、その温きお心遣い、ありがたく頂戴する。だが、案ずるな。ここはここにいる我が兵だけで、何としても全力で守り切ってみせる。それよりも貴殿の部隊こそが、伊達の軍勢を引き付け、我が方の有利な泥濘(ぬかるみ)へと誘い込む要。お主も全力で行ってこい」
二人の視線が交錯し、言葉以上の信頼が雪の中に響き渡った。兵庫は、あえて装飾を一切施していない「無地の鎧」の緒を硬く締め直し、黒川晴氏と共に桑折城へと向かった。
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