### 第三章:陣幕の中の対話
凍てつくような冬の夜、荒野に設えられた斯波の本陣は、外の冷気とは裏腹に、張り詰めた緊張感で満ちていた。和睦の談判のため、渋谷は単身でその中心へと歩を進める。陣幕の内側では、黄金の屏風が焚き火の火を受けて鈍く光を放ち、その前に斯波の当主が一人、疲れ果てた面持ちで座していた。
当主は、傍らに控えていた家臣たちに無言で目配せをし、陣外へと下がらせた。陣幕の中には、かつて命を奪い合った二人の男だけが残される。当主は、京の公家衆を前に見せるような冷徹な仮面を維持しようとしたが、その眼差しには、隠しきれない焦燥と深い疲労が刻み込まれていた。
「……ここだけの話だ、渋谷」
当主の声は低く、どこか掠れていた。彼は威厳を保とうと背筋を伸ばしたが、その言葉は絞り出すような吐露であった。
「わしは京からこの地を平定せよとの命を受けて下向したが、現実は甘くなかった。南からは伊達ら強大な隣国が、虎視眈々とこの地を狙っている。斯波家の兵力と京の兵法だけでは、いずれこの地を維持できなくなる。この荒涼とした奥州の地理、そして何よりこの地に根付く者たちの深層を知る、おぬしの知識と力がどうしても必要なのだ」
当主は深々とため息をつき、火の粉が舞う囲炉裏を見つめた。
「このまま内紛を続ければ、斯波も渋谷も共倒れだ。……わしを助けてくれ。おぬしの協力があれば、この地を血に染めずに治められるはずだ。頼めるか」
渋谷は、かつての敵が見せたその脆さと、奥州を想う切実な響きをじっと聞き届けた。高慢だと決めつけていた当主の鎧の隙間から、一人の「領主」としての孤独と必死さがこぼれ落ちていた。渋谷の脳裏には、泥にまみれながらも懸命に生きた領民たちの顔が浮かんでいた。この地を守るためには、今ここで対立を解くしかない。そう確信した渋谷は、静かに頷き返した。
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